臨死出血流黄疸。 5.

5.臨死出血流黄疸。

 ドッドッド……僕の手にエンジンの振動が伝わる。腕はその重みを感じている。この機械のことを初めて知ったのは、小学校の社会科の時間だったろうか。担い手の不足と労働に関する病気。ロウビョウとか、そんな名前だったか。長時間この振動を身体に受けることによって、パンチ・ドランカーのような体質になってしまう、そういう病気。じゃあなかったと思う。もう十年以上前のことは記憶がアテにならない。

 思えば、最初に知ったのは小学校の時だったけど、写真やテレビで見ても、実物を見ることはなかったし、手に持ったのは今日が初めてじゃあないけど、エンジンをかけたのは今日が初めてだった。練習をしていないから、ちゃんと分割することができるだろうか。練習なんてする気なんて起きなかった。ドッドッド……僕の手の中でチェーン・ソウが振動している。彼女の腕に滴る血が、赤い血がその滴りの中心から透明になり、血というよりは、黄色いリンパの液のようになる。

「痛くない?」

 自分でも、素っ頓狂な訳の分からないことを聞く。マリッジ・ブルーの最終段階の序『臨死出血流黄疸』が始まる頃には花嫁には意識はなく、表情に変化もないので痛覚からは解放されていると推測されている。その痛みは花嫁にしか分からない。だけど花嫁はもう言葉を発しない。だから分からない。

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